お侍様 小劇場

   “日向ぼっこ” (お侍 番外編 125)


この冬は格別に手厳しい寒さを伴ってやって来た感があり。
毎年 豪雪が話題になってはいた近年ではあれど、
始まりは“あれ、今年は暖冬なのかな?”と思わせるような穏やかさだったり、
クリスマスだけとか大みそかだけ寒いが、
それ以外は 10日ほども続く暖かさがあった。
大雪が降るとしたらば、二月更衣の声を聞いてからとか、
受験生が本番を迎える頃合いで。
ああそうか、札幌では雪まつりだったというニュースを見てののち、
ああ受験生は大変だねぇとあたらめて眉をひそめたものだったのに。

 “そういや、12月の初めから随分と寒い日が続いてますものねぇ。”

木曽の山間という寒冷地の産だし、
しかも若いから…というだけではなく、
剣道への鍛練を積んでいるのもあってのこと。
どちらかといや寒さには強い久蔵が、
クロゼットへ用意しておいた手套やマフラー、
着てゆきなさいと玄関先で注意するより前に、
自身で装着して出掛けたのが…記録破りに早い頃合いだったほどで。

 “何ですよ、その寒冷地の産っていうのは。”

あ、そっちですか、引っ掛かったの。(苦笑)
朝の食事に使ったあれこれ、手際よく片付けての、さて。
お掃除に掛かろうか、いや待て、洗濯機は止まってないかと、
お廊下へ首だけ出して耳をそばだてて物音を聞き。
まだ大丈夫と“うんうん”と頷きつつ、
ダイニング経由でリビングへ足を運べば、
七郎次の白皙の細おもてを目映く照らすは、大窓からの明るい陽光。
簡単に束ねただけの金絲をつややかに輝かせるほどの
それはそれは暖かそうな陽が射し入っている。
夏場ほどの躍動はさすがに感じられはしないものの、
大きい間口を取った掃き出し窓の向こう、
サツキの茂みと椿の木立ちの緑を、
いやに春めいた明るさで照らしてもおり。
ほら今日は暖かいよ…と誘いつつ、
おいでおいでしているように見えなくもないけれど、

 “なんのなんの。”

新聞を取りに出た早朝ほどではないにせよ、
先程 門柱まで出て勘兵衛の出社を見送った折、
頬に触れた寒気は結構な冷ややかさだったので。
ちょっと回覧板をなんて程度でも侮るなかれ。
迂闊に薄着で出ようものなら、
肩や背条がぶるるっと冷え込むこと請け合いの、
まだまだ油断のならぬ気温でもあると……

 “………あ。”

自分はちゃんと知っているけれど、
先週終わった期末考査のあと、
採点休暇という
春休みの前倒しのさなかにある次男坊はどうかなと。
ちらっと思ったのとほぼ同時、
七郎次の視野の中へと収まったのが、

 “ありゃまあ…vv”

金の綿毛の輪郭を陽に透かせ、
いやいや、梳かせているものだろか。
大きなクッションに痩躯を埋めて、
猫と呼ぶには大きめの、
しなやかな肢体をした存在が、
大窓から柔らかに降りそそぐ光に包まれつつ、
リビングの陽だまりの中で転寝中。
強い光ではないからこそのこと、
すっと通った鼻梁や、あごを縁取るおとがいの陰が
くっきりと落ちるではなくの ぼやかされていて。
そんな白い肌や髪色が相俟っての、
ますますと淡い印象を強めており。
静かな寝息を拾いつつ、

 “かわいらしい…vv”

ついのこととて、
口許をほわりとゆるませ、
穏やかに頬笑んだ七郎次だったけれど。


   ……………………………う〜ん。(笑)


これでも、竹刀を取ったら全国チャンプ。
部長さんさえ打ち負かす鬼っ子であり。

 “でもでも、部長さん曰く、
  隙も多いので、蹴たぐるのは簡単だぞとのことですが。”

またその部長さんというのが
黒髪もつやつやの凛としたきれいな子で、と。
ほのぼのと話を脱線させるおっ母様は、
言わずもがな次男坊贔屓なんだから ちいと黙ってらっしゃい。
……じゃあなくて。
そっちはもしかして、全力出し切らない結果かもしれない。

 “まぶたがピクッとしただけですよ、怖がることありませんて。”

だ〜か〜ら〜。(話が進まん)笑
場外の話が聞こえたか、
細い眉が一瞬震えた、
もしかしてお父様譲りの狸寝入りかもしれない次男坊。
いえいえ そんなことはありませんてと、
すぐ傍らまで そおと足を運んだおっ母様は。
ひょいと屈むと、寝顔をじっくりと眺め始める。
特に暖房を利かせている訳ではないながら、
射し入る陽だけで結構な暖かさとなっている一角で。
ボートネックのジャージーシャツに、
フリースのパーカーとコットンのパンツという、
至ってシンプルな恰好のまま。
無心に眠り続ける様子が、
七郎次には何ともあどけなく映るようで。
昨日までの連休と今週一杯とは、
部の活動も休みだとかで。
それに乗じて、こうしてのんびり過ごしておいで。
彼に限った話じゃないながら、
進んで天辺を目指すクチは
放っておいても自主トレに勤しむので問題は無しとされてるそうだし、
先程もちらっと言い掛かりましたが、
こちらの彼の場合、
真剣本気の集中モードに入ったならば、
隙が出来るどころの話じゃなくなる。
相手が殺気をみなぎらせていても動じず、
いかついシーナイフや拳銃を向けられても、
決して浮足立つことはなく。
沈着冷静に対処をし、
最小の手際にて人事不省にもってゆき、
あっさり昏倒させられるほどの
実は“辣腕”だったりするのだから恐ろしい。

  しかもしかも、
  単なる護身術としてのそれじゃあなくて

現在の公的なレベルじゃあ 知る人はほとんどいない、
警察や公安関係者だとて、都市伝説の範疇だろうとしている、
とある謎の組織の一員として。
内戦紛争から組織同士の抗争による謀殺まで、
義によって看過出来ないレベルのそれと断じられたる事案へ首を突っ込み、
公的な機関の介入が敵わぬものへほど、
そりゃあ鮮やかに収拾へと持ってゆく謎の一団これありて。
新手のNPOなんじゃあない、
表向きには出来ねども、各国の保険会社が競って提携しており、
大ごとにならぬよう手を打つ彼らへ報酬を支払っている、とか。
いやいや、それもあるがそれ以上に、
そんな組織力もあっさり蹴倒す存在の所業、
その結末に救われた側への恩を売り、
別の騒動での助力とサポートという、
形ある格好での恩返しをよろしくと、

 『結構えげつない縁を延々と つないどぉようなもんや。』

手を貸さねば、
例の件であんたらがどういう立ち回り方をし、
誰を見捨ててどっちへついたか、
その結果として利益を得たか、
その全貌をそっちの筋へ流すことも可能だぞと、
無言で威圧するよなもの。
なので、結果として全世界の後ろ暗い連中が一団となり、
唯々諾々 協力してもくれているだけのこと…と。
そんな解釈をしていたのは、西方の総代様だったかな。

 “でも、久蔵殿は まだ。”

成人となっての一族の一員として認められる、
儀式儀礼としての“名乗りあげ”を済ませてない身だ、
……と言いたいらしいが、

 『だとしても、だ。』

予行演習的に、
未成年の者でも務めへ駆り出されることがないではないが。
彼が“居合わせたから”と手を出した務めもどきは、
どれもこれもが 危険と隣り合わせ級のものばかりとあって。
お叱りを受けたこともたびたびという頼もしさ。
そんなおっかない子を“かわいいvv”と心から愛でられるお人は、
島田一族の中にあっても、
木曽の屋敷に詰めておいでの乳母のツタさんと、
こちらの七郎次さんくらいのもんじゃなかろうか。

 “…風邪ひいちゃわないでしょうかね。”

あ、こっちを見切りましたね。(まま、別に いんですけれど)
今日も朝早くに、
庭先で竹刀の素振りをこなしていた
彼の生真面目さを知っている七郎次としては。
夜更かしであっても微笑ましいと思う寝顔、
尚のこと、
起こさずにいてやろう、守ってやろうと感じたようで。
ブランケットでも持って来ようかと、
そおと身を起こしかかったところ、

 「………。」
 「ありゃ、起きましたか。」

寝息が深いそれとなり、
頬にやわらかく伏せられていたまつげが上がる。
まだくっきりとした覚醒ではなかったものが、
視野の中にいる存在にピントが合ったか、

 「……。」
 「ああ、いえ。掃除機をかけるのはまだあとで。」

家事への邪魔をしたんじゃないかと思ったか、
身を起こすのが素早かったのへ、
どうどうと宥めるように手を仰ぐようにして見せた七郎次。
そのまま、傍らのソファーにあった新聞に眸をやって、
カラフルなチラシの束を手にすると、

 「そうだ。今日は予定がないと仰せでしたよね。
  午後からQ街まで出ませんか?
  美味しいチョコレートのフェアがあるそうですし。」

大きな窓から燦々と降りそそぐ陽光よりも、
まろやかに暖かい微笑を振り向けられては、

 「〜〜〜〜。///////」

誰がどうして“否”と言えましょうかとの、それはそれは正直に。
口許をうにむにとたわませつつ、
こっくりと頷いた剣豪さんだったそうでございます。
まま、この様子だけを見る分には、
可憐で愛らしいの可愛いの、
手放しで言いたくなる七郎次さんのお気持ちも、
まあ判らなくはないですが。

  おや、結構暖かいのですね。
  ちょっとお邪魔しますよ…なんて、

すぐの真横へ寝転ぶおっ母様であり、
どのチョコレートが美味しいでしょうね。
ええ、女の子ばかりの催し場でしょうが、
そんなことに怯んでいては美味しいものは得られません。
今しか手に入らない限定品もあるそうですし、
男性から女性へという贈り方もあるそうですしねと。
単なる話の切っ掛けで済ますつもりじゃあなくの、
本気でバレンタインデー向けの催場へ
乗り込む気らしいおっ母様なのへ、

 「〜〜〜。//////」

こちらさんは恐らく、
では自分がガードをしようくらいのお気持ち、
今度こそしっかと頷いての、
そのまま落ち着いて、同じチラシを左右から支え合い、
これはどうだ、こっちは可愛いと、
出展作品を品定めし始めた金髪の美人さんが二人。

 チョコ売り場が別口の熱気で満たされて、
 チョコレートが溶けちゃわなきゃいんですが。(笑)




     〜Fine〜  13.02.12.


  *一頃は“義理チョコ”向けのお遊び商品がウケていたようですが、
   不景気なのは変わらぬながらも、
   年々、それも女性をターゲットにした
   高級志向チョコも戻って来ているらしいですね。
   日頃は到底買わないけれど、
   自分へのご褒美チョコとして、
   年に一回くらい贅沢を…という人が増えてるとか。
   あと、本命さんへは手作りという人も増えてるようですし、
   こちらの二人みたいなキラキラしい顔触れが乱入したとて、
   売上や雰囲気に変動はないかと思われますが…。

   「いやいや、その場で衝動買いする人は増えるかも知れん。」
   「せやな。
    ついついときめいて、当てのないのんを1つ…とか。」

   ウチでも清酒のボンボンとか出したらどうえ。
   言われんでも
   ミニチュアの小瓶とセットにしたん、出してますえ?
   …などなどと、
   幹部の二人が時事の話題を語らっておいでなところへと、

   「お二人とも、
    そうやって話題になさる以上、
    恒例のものとの自覚ありと見なしますよ?
    ご自身へ届いたものは自己責任で食べて下さいませね。」

   学生時代からこっち、
   食べ切れない分を“甘いもの好きだろう”と
   押し付けられ続けた誰かさんが、
   通りすがりに きりりと一声かけたそうでございます。

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